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アルコール摂取と加齢性難聴の関連を大規模データで解明 -飲酒量?性別?遺伝子型により影響が異なる-

【本学研究者情報】

〇東北大学大学院医学系研究科 耳鼻咽喉?頭頸部外科学分野 准教授 鈴木 淳
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 東北メディカル?メガバンク計画(注1)が有する約1.5万人分の大規模データを用いて、飲酒量(注2)と加齢性難聴(注3)の関連を男女別に詳細に解析しました。
  • 男性は多量飲酒(純アルコール摂取量1日60g以上)で難聴が多い一方、女性では少量~中等量飲酒(1日10~20g)で難聴が少ないことがわかりました。
  • 本研究により、飲酒が難聴に与える影響はアルコール代謝に関わる遺伝因子によって変動する可能性が示唆され、今後の加齢性難聴の予防や個別化医療を考える上で重要な報告です。

【概要】

「加齢性難聴」は日常生活の質や社会参加に大きな影響を及ぼす有病率の高い疾患ですが、飲酒との関連については見解が一致していません。

東北大学大学院医学系研究科耳鼻咽喉?頭頸部外科学分野の香取 幸夫教授、鈴木 淳准教授、高橋 ひより非常勤講師らの研究グループは、東北メディカル?メガバンク計画の大規模データを用いて、標準純音聴力検査(注4)による客観的な聴力評価と、詳細な飲酒習慣の質問票データを組み合わせて、加齢性難聴と飲酒量との関連を検討しました。その結果、飲酒量と加齢性難聴との関連は男女で異なり、男性では多量飲酒で難聴が多く、女性では少量から中等量の飲酒で難聴が少ないことがわかりました。さらに本研究では、日本人のアルコール飲酒量や代謝に関わる遺伝的背景に着目し、飲酒に関連する遺伝子多型による難聴の有病率の違いについても検討しました。その結果、一部の遺伝子多型では、同じ飲酒量でも難聴の割合が異なり、遺伝的な違いにより飲酒が加齢性難聴に与える影響が異なる可能性が示されました。

本研究は、身近な生活習慣である「飲酒」と加齢性難聴の関係について、男女別?詳細な飲酒量区分?遺伝的背景を同時に考慮して検討した点に特徴があり、今後の加齢性難聴の予防や個別化医療を考える上で重要な報告になります。

本研究成果は、2025年12月2日に国際学術誌Scientific Reports(電子版)に掲載されました。

図1. 高音域(4,000Hz)の難聴に対する飲酒量の影響:男性の多変量解析 男性では1日60g以上のアルコール摂取群で、生涯飲酒しない群と比較して高音域(4,000Hz)において難聴の割合が高いことが示されました。特に、60-80g 群ではオッズ比 1.42(95%信頼区間:1.05-1.94、p=0.026)、 さらに80g以上の大量飲酒群ではオッズ比 1.55(95%信頼区間:1.12-2.16、p=0.009)と、 摂取量が増えるほど難聴の割合が高まることが認められました。

【用語解説】

注1. 東北メディカル?メガバンク計画
東日本大震災が被災者に与えた長期的影響と、がんや心血管疾患などの主要疾患の発症率に及ぼす遺伝子と環境の相互作用を評価するために、宮城県、および岩手県を中心として立ち上げられたコホート調査およびバイオバンク事業。一般住民を対象とした地域住民コホート調査と家系情報付きの三世代コホート調査があります。2015年度より、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が研究支援担当機関の役割を果たしています。https://www.megabank.tohoku.ac.jp/

注2. 飲酒量
日本では厚生労働省が、適正飲酒量の上限を、純アルコール摂取量で男性では1日40g未満、女性では1日20g未満を目安としています。一方で、これを超える飲酒は、生活習慣病のリスクを高める可能性があるとされています。 本研究ではこの適正飲酒量の考え方を踏まえ、飲酒量を純アルコール摂取量(g/日)にもとづいて区分し、解析を行いました。
具体的には、女性では1日20g程度、男性では1日40g程度を一つの目安とし、その前後の摂取量を含むように、飲酒量を男女別に6つの区分に分類しました。
男性は「非飲酒」から「1日80g以上」までの6群:
 (0g〔非飲酒〕/0-20g/20-40g/40-60g/60-80g/80g以上)、
女性は「非飲酒」から「1日40g以上」までの6群:
 (0g〔非飲酒〕/0-10g/10-20g/20-30g/30-40g/40g以上)
なお、純アルコール量(g)の目安として、ビール350mL缶1本には約13g、日本酒1合(180mL)には約23g、ワイン1杯(約120mL)には約11gの純アルコールが含まれています。
 ビール350ml缶 = 純アルコール量 約12.7g
 日本酒 一合(180ml) = 純アルコール量約23g
 ワイン グラス 1杯(100mL) = 純アルコール量 約12g

注3. 加齢性難聴
加齢性難聴とは、年齢とともに進行する難聴で、高音域から聞き取りにくくなることが特徴です。自覚しにくい場合も多い一方、進行すると日常生活や社会参加に影響を及ぼします。近年では認知症との関連も注目されています。現状では、加齢性難聴に対する治療薬はなく、そのため、進行予防や早期対応の重要性が指摘されています。

注4. 標準純音聴力検査
標準純音聴力検査とは、ヘッドホンから流れる「ピー」という純音を用いて、「聞こえた」と反応できる最小の音の強さ(聴力レベル)を測定する検査です。本研究では、低音の 500Hz から高音の 4,000Hz までの 4 周波数について、ヘッドホンで測定した気導聴力の結果を使用しています。

【論文情報】

タイトル:Relationship between age-related hearing loss and alcohol consumption in a Japanese population
日本人集団における加齢性難聴と飲酒量との関連
著者: Hiyori Takahashi, Jun Suzuki*, Ikuko N. Motoike, Miyuki Sakurai, Yuta Kobayashi, Gosuke Watarai, Hiroki Tozuka, Mana Kogure, Tetsuaki Kawase, Yohei Honkura, Ryoukichi Ikeda, Kengo Kinoshita, Naoki Nakaya, Taku Obara, Atsushi Hozawa, Shinichi Kuriyama, Nobuo Fuse, Masayuki Yamamoto, Yukio Katori
高橋ひより、鈴木淳*、元池育子、櫻井美由紀、小林祐太、渡来剛右、戸塚大幾、小暮真奈、川瀬哲明、本藏陽平、池田怜吉、木下賢吾、中谷直樹、小原拓、寳澤篤、栗山進一、布施昇男、山本雅之、香取幸夫
*責任著者:東北大学大学院医学系研究科耳鼻咽喉?頭頸部外科学分野 准教授 鈴木淳(すずき じゅん)
掲載誌:Scientific Reports
DOI:10.1038/s41598-025-29634-7

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科
耳鼻咽喉?頭頸部外科学分野
准教授 鈴木 淳(すずき じゅん)
TEL: 022-717-7304
Email: jun.suzuki.c2*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科?医学部広報室
東北大学病院広報室
TEL: 022-717-8032
Email: press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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