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医薬品への応用が期待されるアルカロイドの網羅的化学合成に世界で初めて成功

【本学研究者情報】

〇薬学研究科医薬製造化学分野 教授 徳山英利
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 創薬シーズとして注目される植物アルカロイド(注1であるデヌダチン類の世界初の網羅的な不斉完全化学合成に成功しました。
  • 三つの炭素-炭素結合形成反応を駆使しデヌダチン類の複雑骨格を構築した後、望みの位置にピンポイントで酸素官能基を導入する手法を開発しました。
  • 本研究で確立した手法により、多様な酸素官能基配置パターンと複雑な炭素骨格を併せ持つアルカロイド群を基盤とする創薬研究の加速が期待されます。

【概要】

トリカブト属の植物から主に抽出されるアルカロイドであるデヌダチン類は、抗酸化作用や抗不整脈作用、鎮痛作用など多彩な生物活性を示す化合物群であり、創薬シーズとして注目されています。これまでに骨格上の酸素官能基(注2の配置パターンが異なる約60種の類縁体が単離されていますが、その極めて複雑な骨格構造と多数の酸素官能基により化学合成例はわずか三例(うち不斉合成(注3は一例)のみでした。このため、多くのデヌダチン類が合成されずに取り残されており、天然からの単離量も限られるため、多様な酸素官能基配置パターンを持つデヌダチン類の網羅的合成(注4の開発が強く望まれていました。

今回、東北大学大学院薬学研究科の徳山英利教授、坂田樹理助教、河野駿大学院生らの研究グループは、複雑な炭素骨格の効率的構築と合成終盤でのピンポイント酸素官能基導入を組み合わせた独自の戦略により、五種類のデヌダチン類の世界初の不斉完全化学合成に成功しました。今回開発した複雑骨格の構築と酸素官能基導入を組み合わせる合成戦略は、これまで立ち遅れていたデヌダチン類をはじめとする複雑アルカロイドの創薬研究への応用が期待されます。

本研究成果は、2025年12月4日付でドイツ化学会誌Anegwandte Chemie International Editionにオンライン掲載されました。

図1. 今回全合成を達成したデヌダチンアルカロイド

【用語解説】

注1. アルカロイド:窒素原子を含む天然有機化合物の総称。アルカロイドという名称は、大部分の化合物が塩基性を示すことから、アルカリ(塩基性)に由来する。その多くが多様な生物活性を示し、医薬品に用いられる医薬資源として知られる。またアルカロイドは、医薬品だけでなく、コーヒーに含まれるカフェインやタバコの葉に含まれるニコチンなど、嗜好品にも含まれている。

注2. 酸素官能基:酸素原子を含む官能基(ヒドロキシ基やカルボニル基)の総称。化合物の反応性や性質を大きく左右するため、天然有機化合物や医薬品では、酸素官能基の種類や配置が生物活性を大きく変える。

注3. 不斉合成:光学活性体のうちの一方のみを選択的に合成すること。医薬品や農薬では一方の光学活性のみが有効な作用を示すことが多いため、目的とする光学活性体を高い純度で得ることが重要。

注4. 網羅的合成:一つの化合物から分岐させることにより、多数の関連化合物を体系的に合成すること。複雑天然有機化合物などでは、わずかな構造の違いで生物活性が大きく変化するため、複数の関連化合物を一挙に合成して比較することが求められる。

【論文情報】

タイトル:Divergent Total Synthesis of Denudatine Alkaloids Cochlearenine, Macrocentrine, Dictizine, 15-Veratroyl-17-Acetyl-19-Oxodictizine, and the Proposed Structure of Acochlearine
著者:Shun Kawano, Naoya Miyamoto, Kosuke Fujioka, Hiroki Toya, Juri Sakata, Hidetoshi Tokuyama*
*責任著者 東北大学大学院薬学研究科 教授 徳山英利
掲載誌:Angewandte Chemie International Edition
DOI:10.1002/anie.202521481

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院薬学研究科
教授 徳山 英利
TEL:022-795-6887
Email:hidetoshi.tokuyama.d4*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院薬学研究科 総務係
TEL:022-795-6801
Email:ph-som*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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