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英単語の練習、脳科学で最適なタイミングを探る―記憶定着は対話「前」、意思疎通の促進なら対話「後」の練習が効果的―

【発表のポイント】

  • 本研究は世界で初めて、英単語でのコミュニケーション活動において、単語練習を活動の「前」に行うと記憶の定着が進み、「後」に行うと対話中の脳活動がシンクロし相互理解を促進するという、練習のタイミングによる効果の違いを明らかにしました。
  • また、単語練習を「前」に行うと、1週間後まで効果が持続するなど、単語の知識を正確に覚える上で有効であることがわかりました。
  • さらに、脳活動の同調性が高いペアほど語彙の学習効果も高いことが示され、対話を通じた学習における共同作業の重要性が示されました。
  • 本成果は、学習目標(正確な知識か、対話プロセスか)に応じて指導のタイミングを柔軟に変えるべきという、教育の実践現場に重要な示唆を与えるものです。

【概要】

英語の授業でコミュニケーション活動を行う際、活動で使う英単語の練習は、活動の「前」と「後」のどちらで行うべきか。この教育現場における長年の問いに、脳科学が新たな光を当てました。事前の単語学習はコミュニケーションの準備になりますが、英単語を思い出すためだけの単なる機械的な反復作業に陥る懸念もあります。一方、事後の練習は活動で使った単語の定着を促進できる可能性があります。

早稲田大学国際学術院の鈴木祐一(すずき ゆういち)准教授、富山大学の野澤孝之(のざわ たかゆき)教授、東北大学の内原卓海(うちはら たくみ)准教授(ディスティングイッシュトアソシエイトプロフェッサー)、玉川大学の中村幸子(なかむら さちこ)講師、東京大学先端科学技術研究センターの宮﨑敦子(みやざき あつこ)特任研究員、東北大学の鄭嫣婷(じょん ひょんじょん)教授の研究グループは、日本人英語学習者80名(40ペア)を対象に、語彙練習のタイミングが学習成果と対話中の脳活動に与える影響を検証しました。脳活動の計測には、fNIRS(※1)という装着型の装置を用い、ペアの脳の同調度(シンクロ)を比較しました(図1)。

その結果、語彙練習のタイミングによって得られる効果が異なることが判明しました。タスク前の練習は語彙の記憶定着を、タスク後の練習は対話中の脳同調を高めたのです。本研究は、教育目標に応じて指導法をデザインするための科学的知見を提供するものです。

本研究成果は、2025年10月6日に「Studies in Second Language Acquisition」に掲載されました。

(図1)fNIRS測定と学習タスクのセットアップ

【用語解説】

※1. fNIRS(エフニルス/機能的近赤外分光法) 脳の活動にともなう血液中の酸素変化を、赤外線の一種(近赤外光)でとらえる装置。装着者への負担が少なく、自然な状態でコミュニケーションをとっている最中の脳活動を計測できるため、社会的なインタラクションの研究に広く用いられている。

【論文情報】

タイトル:Timing matters for interactive task-based learning: Effects of vocabulary practice on learning multiword expressions and neural synchronization
著者:鈴木祐一?*, 野澤孝之?, 内原卓海?, 中村幸子?, 宮﨑敦子?, 鄭嫣婷 ? (?早稲田大学, ?富山大学, ?東北大学, ?玉川大学, ?東京大学)
掲載誌:Studies in Second Language Acquisition (Cambridge University Press)
DOI:10.1017/S0272263125101290

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問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学国際文化研究科
教授 鄭 嫣婷
TEL:022-795-7607
Email: hyeonjeong.jeong.b8*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

准教授 内原 卓海
TEL:022-795-7593
Email: takumi.uchihara.a2*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院国際文化研究科総務企画係
TEL: 022-795-7541
Email: int-som*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)