本文へ ナビゲーションへ
ここから本文です

新半導体材料GeSnの量子井戸構造における量子?スピン物性を解明 GeSnが切り拓く量子技術とスピントロニクスの未来

【本学研究者情報】

〇大学院工学研究科知能デバイス材料学専攻 教授 好田誠
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • ゲルマニウム?スズ(GeSn)(注1量子井戸における低有効質量(注2、大きなg因子(注3、強いスピン軌道相互作用(注4を世界で初めて包括的に解明しました。
  • CMOS技術との高い互換性を持ち、量子コンピューティングや低消費電力スピントロニクスに極めて有望です。
  • 光デバイスや熱電変換など多用途に展開可能な次世代半導体材料としての可能性を示しました。

【概要】

世界中で増え続けるデータを支えるには、従来のシリコン半導体だけでは限界が見えてきています。その次世代を担う有力候補として研究者の注目を集めているのがゲルマニウム?スズです。

東北大学大学院工学研究科の好田誠教授は、ドイツ?ユーリッヒ研究センターおよびカナダ?エコールポリテクニック?モントリオールとの国際共同研究により、GeSnの量子井戸構造におけるスピン(注5量子物性を世界で初めて明らかにしました。本研究では、従来のシリコンやゲルマニウムでは得ることが困難であった低有効質量や大きなg因子、さらには強いスピン軌道相互作用を同時に実証し、量子コンピューティングやスピントロニクス素子の高性能化につながる可能性を示しました。GeSnはシリコンやゲルマニウムと同じIV族半導体(注6であるため、既存のCMOS技術と高い互換性を持ち、産業応用に直結できる点が大きな利点です。

情報通信の爆発的需要が見込まれる近未来において、本成果は持続可能で低消費電力な半導体技術を実現するための重要な一歩であり、量子科学と次世代情報社会をつなぐ架け橋となることが期待されます。

本研究成果は、10月2日に学術誌 Communications Materials のオンライン版に掲載されました。

図1. (a) 高品位GeSn/Ge半導体量子井戸構造の原子像 (b)今回作製したトランジスタデバイス

【用語解説】

注1. ゲルマニウム?スズ(GeSn):半導体元素であるゲルマニウム(Ge)にスズ(Sn)を混ぜ合わせた合金半導体。どちらもシリコンと同じ「IV族半導体」に属するため、既存のシリコン技術(CMOS技術)と高い互換性を持つことが大きな特長。

注2. 有効質量:半導体や金属中で電子やホールがあたかも「自由電子とは異なる質量を持つ粒子」として振る舞うときの見かけの質量のこと。

注3. g因子:スピンが外部磁場にどのくらい強く反応するかを示す係数。値が大きいほど、磁場によるスピンの分裂や変化が顕著になり、スピンを制御?検出しやすくなる。量子コンピュータにおけるスピン量子ビットの動作や、スピントロニクスデバイスの設計において非常に重要な指標。

注4. スピン軌道相互作用:電場の中を運動する電子が実効的に磁場を感じるという相対論的効果。半導体中では結晶構造や量子井戸などの構造による局所電場が原因でその効果が発現する。

注5. スピン:電子やホールなどの粒子が持つ微小な磁石の性質のこと。

注6. IV族半導体:周期表の「IV族(4族)」に属する元素(価電子が4つある元素)で、シリコン、ゲルマニウム、スズなどからできる半導体の総称。シリコンを中心に発展してきた半導体産業の基盤を支える材料群であり、新材料も既存技術との親和性が高い点が特徴。

【論文情報】

タイトル:GeSn Quantum Wells as a Platform for Spin-Resolved Hole Transport
著者:Prateek Kaul, Jan Karthein, Jonas Buchhorn, Taizo Kawano, Taisei Usubuchi, Jun Ishihara, Nicolas Rotaru, Patrick Del Vecchio, Omar Concepcion, Zoran Ikonic, Detlev Grützmacher, Qing-Tai Zhao, Oussama Moutanabbir, Makoto Kohda*, Thomas Sch?pers and Dan Buca*
*責任著者:東北大学大学院工学研究科 教授 好田誠
ユーリッヒ研究センター グループリーダー Dan Buca
掲載誌:Communications Materials
DOI:10.1038/s43246-025-00934-9

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院工学研究科
教授 好田 誠
TEL: 022-795-7316
Email: makoto.koda.c5*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院工学研究科情報広報室
担当 沼澤 みどり
TEL: 022-795-5898
Email: eng-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

sdgs_logo

sdgs07 sdgs09

東北大学は持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています