2025年 | プレスリリース?研究成果
酸素の吸着で磁石の変遷を観る 酸素の電子スピンを利用した分子デバイスへの応用に筋道
【本学研究者情報】
〇金属材料研究所 教授 宮坂等
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 酸素の電子スピン(注1)が磁石の性質に直接相互作用することで、磁石の酸素吸着量に応じ、強磁性(ON)と反強磁性(OFF)を連続的(アナログ的)に変調できる新材料を開発しました。
- この材料において、磁石がON状態から酸素吸着量の増加に伴い非磁性体に近いOFF状態へと滑らかに変化する様子を、世界で初めて連続的に観測しました。
- 本成果は吸着酸素量にきめ細かく反応する「アナログ磁石」として、次世代の酸素センサーや高性能分子デバイス開発への貢献が期待されます。
【概要】
酸素は、磁石の起源となる電子スピンを持つ最小の分子単位の一つです。もし酸素のスピンを磁石のON/OFFスイッチとして自在に利用できれば、酸素を選択的に検知?制御する新たな分子デバイスの開発につながります。
東北大学金属材料研究所の高坂亘 准教授と宮坂等 教授の研究グループは、酸素の吸脱着によって磁気相(注2)を切り替えられる磁石を報告してきました(参考文献1)。しかし、酸素の吸着が進む過程で磁気相がどのように変化していくのかは未解明でした。
今回、本研究グループと大阪大学大学院基礎工学研究科 北河康隆 教授および武漢大学 張俊 教授らとの共同研究グループは、酸素ガスの吸脱着で磁石のON/OFFを制御できる二例目となる多孔性磁石(注3)を開発しました。本材料では、わずかな酸素吸着量で磁石の状態を連続的に制御できることが特長です。酸素の吸着量変化に応じて、磁石がON状態からOFF状態へと滑らかに移行する磁気相変化を時間経過とともに世界で初めて追跡することに成功しました。この成果は、単なる二元的ON/OFFスイッチを超え、アナログ的に調整可能な分子デバイス実現への道を拓くものです。
本研究成果は、2025年9月17日(現地時間)付で、アメリカ化学会誌Journal of the American Chemical Societyにオンライン掲載されました。

図1. 電子供与性分子(水車型ルテニウム錯体)と電子受容性分子(TCNQ誘導体)から合成される層状MOF磁石の模式図。
【用語解説】
注1. 電子スピン:電子はマイナスの電荷を持ち、自転(スピン)していると考えることができます。そのため、一つ一つの電子はS極、N極を持つ棒磁石のようにみなすことができます(コイルを巻いた電磁石をイメージして下さい)。スピンはしばしば、矢印によって表されます。
注2. 磁気相:常磁性、強磁性、反強磁性をはじめとする様々な電子スピンの配列の様式(磁気秩序状態)を総称して磁気相と言います。常磁性は秩序を持たない状態であり、強磁性、反強磁性、フェリ磁性は磁気秩序を持つ状態です。磁石として機能するのは、強磁性、フェリ磁性の磁気秩序状態であり、反強磁性は、通常の意味での磁石としての機能は持たない磁気秩序状態になります。
注3. 多孔性磁石:これまでの研究において、酸素や二酸化炭素の吸脱着を利用した磁石のON-OFF(磁気相変換)が可能な材料が見出されていました(参考文献1?5)。
【論文情報】
タイトル:Cooperative Magnetic Phase Evolution via Oxygen Spin Coupling in a Layered Metal?Organic Framework
著者:Jun ZHANG, Yang CAO, Wataru KOSAKA, Masaki MIMURA, Yasutaka KITAGAWA, Hitoshi MIYASAKA*
*責任著者:東北大学金属材料研究所 教授 宮坂等
掲載誌:Journal of the American Chemical Society
DOI:10.1021/jacs.5c120385
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学金属材料研究所 錯体物性化学研究部門
教授 宮坂 等(ミヤサカ ヒトシ)
TEL:022-215-2030
Email:hitoshi.miyasaka.e7*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学金属材料研究所 情報企画室広報班
TEL:022-215-2144 FAX:022-215-2482
Email:press.imr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
東北大学は持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています