2025年 | プレスリリース?研究成果
高輝度放射光を用いて高温超伝導体中の電子の振動を解明 超伝導発現機構の解明や転移温度を高める手がかりになると期待
【本学研究者情報】
〇学際科学フロンティア研究所
助教 鈴木博人(すずき はくと)
研究所ウェブサイト
【発表のポイント】
- 銅酸化物高温超伝導体を流れる電子のプラズマ振動(注1)の性質を、3GeV高輝度放射光(注2)施設NanoTerasu(注3)を用いて解明しました。
- 本研究はNanoTerasuの共用ビームラインで開発された世界最高性能の共鳴非弾性X線散乱(RIXS)(注4)を用いた初めての成果です。
- 高温超伝導や磁性材料の機能のメカニズムが解明されると期待されます。
【概要】
超伝導とは、ある特定の温度以下で金属の電気抵抗がゼロになり、電気がスムーズに流れるようになる現象です。多くの超伝導体はおよそ?200℃以下という非常に低い温度でしかこの性質を示さないため、より高い温度で超伝導を示す物質が望まれる一方、超伝導の発現機構と超伝導転移温度を高める指針は解明されていません。電気の流れや振動を詳しく調べることで、これらの課題を解決する手がかりが得られる可能性があります。
東北大学学際科学フロンティア研究所の鈴木博人助教らの研究グループは、量子科学技術研究開発機構(QST)NanoTerasuセンター、兵庫県立大学、産業技術総合研究所、物質?材料研究機構などとの共同研究により、?163℃で超伝導を示す銅酸化物超伝導体のプラズマ振動の性質を解明しました。測定には、軟X線(注5)領域の放射光を試料に照射し、跳ね返ってきた光のエネルギーを調べる共鳴非弾性X線散乱(RIXS)を用いました。本研究は高温超伝導の発現機構に知見を与えるとともに、QSTがNanoTerasuの共用ビームラインにて開発したRIXS装置の世界最高水準の性能を実証するものです。
この研究成果は、米国物理学会が発行する学術誌Physical Review Bに2025年4月21日付で掲載されました。

図1. 本研究で測定した三層系銅酸化物Bi2Sr2Ca2Cu3O10の結晶構造。超伝導が発現する二次元的なCuO2面が三枚ずつ積み重なる構造を持つ。
【用語解説】
注1. プラズマ振動:金属中を流れる多数の電子が作る振動のこと。空気の振動として伝わる音と似ている。
注2. 放射光:光速に近い速度で運動する電子が、進行方向を磁石などによって曲げられた際に発生する連続的なエネルギーを持つ光のこと。NanoTerasu(仙台市)やTaiwan Photon Source(台湾?新竹市)のような放射光施設は、電子を3ギガ電子ボルト(3GeV)まで加速する電子シンクロトロンと、電子の軌道を磁界によって曲げ放射光を生成する挿入光源とで構成される。
注3. 3GeV高輝度放射光施設NanoTerasu(ナノテラス):国の主体機関である国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構と地域パートナーの代表機関である一般財団法人光科学イノベーションセンターによる官民地域パートナーシップという新しい枠組みによって整備?運営する特定先端大型研究施設で、東北大学青葉山新キャンパス内に立地している。最新の円型加速器設計を国内で初めて採用した第4世代放射光施設で、従来の100倍の高輝度化と高コヒーレント化を実現することで、物質構造の解析に加え、機能に影響を与える「電子状態」、「ダイナミクス」等の詳細な解析が可能。
注4. 共鳴非弾性X線散乱(RIXS):試料に含まれる化学元素の吸収端に合わせた軟X線を照射し、散乱されて出てくる光のエネルギーを調べる分光法のこと。RIXS はResonant Inelastic X-ray Scatteringの略称。物質内部の電子の性質を調べるのに有用で、世界の放射光施設で装置性能向上の熾烈な競争が起きている。2D-RIXS装置(図2)については、QSTが2024年9月18日付で、「物質の未知の振る舞いに迫る!新世代の分析技術でエネルギー分解能の世界記録を更新~NanoTerasuが2025年3月から世界最先端の分析装置を共用~」と題するプレスリリースを行なっている。
参照URL:https://www.qst.go.jp/site/press/20240918.html
注5. 軟X線:波長が約1ナノメートルから10ナノメートルの間の光。
【論文情報】
タイトル:Out-of-phase Plasmon Excitations in the Trilayer Cuprate Bi2Sr2Ca2Cu3O10+d
著者: S. Nakata, M. Bejas, J. Okamoto, K. Yamamoto, D. Shiga, R. Takahashi, H. Y. Huang, H. Kumigashira, H. Wadati, J. Miyawaki, S. Ishida, H. Eisaki, A. Fujimori, A. Greco, *H. Yamase, D. J. Huang, and *H. Suzuki
*責任著者:物質?材料研究機構 主幹研究員 山瀬博之
*責任著者:東北大学学際科学フロンティア研究所 助教 鈴木博人
掲載誌:Physical Review B
DOI:10.1103/PhysRevB.111.165141
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学 学際科学フロンティア研究所
助教 鈴木博人(すずき はくと)
TEL: 022-217-5804
Email: hakuto.suzuki*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学 学際科学フロンティア研究所 企画部
特任准教授 藤原 英明(ふじわら ひであき)
TEL: 022-795-5259
Email: hideaki*fris.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
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